アレでコレでソレな 


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− アレでコレでソレな −

 ああ、説明できない気持ちに振り回されてどれくらい経っただろう。今日も仕事をしているあなたの横で、下らない話をして仕事の邪魔をして。でも、邪魔とは言わずに笑っているあなたに甘えて、もっと構ってくれとねだって。
 アレでコレでソレなんですヨ。とどのつまりがあのですね、大好きで大好きで、何も手に着かないくらいになっちゃって。困っちゃってるわけなんです。
 真剣な目でお仕事してる姿が好きですよ。私が後ろにそっと立っても気付かないくらいに真っ直ぐ前を見ていて。
 気付いたら気付いたで驚いて、でもすごく嬉しそうに緩む顔とかも大好きです。行けば邪魔をしてるけど、あんまり邪魔して嫌われたくはないと必死に距離を取ってるのに、なんで「もっと遊びにおいでよ」って誘うんでしょうね。

 自分の仕事が早く終わったからと様子を見に行くと、やることはあるのに手持ち無沙汰な感じでぼーっとしているのを見付けました。お兄さんの職場のおじさんは私を覚えてくれているので、呼んであげようかと声を掛けてくれます。
 あれは忙しいようには見えませんねぇと苦笑を返してお願いすると、おじさんと話している私に気付いたお兄さんはてけてけと寄って来ます。他の用事で来たなんて欠片も思っていないのが見て分かるから、嬉しいような、こっちも時々仕事でくるんですよと落ち込むような。
 お兄さんは忙しい時は本当に忙しくて、暇な時は本当に暇な人です。私とは仕事の時間が少しずれているので、一緒に帰ったりはできないし、アフターファイブ遊ぼうか、というわけにもいきません。他愛ないメールのやり取りと、時々一緒に出掛ける休日と、仕事の邪魔しかできません。
 あのね、面白いことがあったのと、大体の時は切り出します。本当は面白いことなんかなくたって顔を見に行きたいし、愚痴を零したくもなる、頼りたくなる相手です。でも、笑っていて欲しいから楽しい話しか持って行きません。
 お兄さんは優しい人なので、私の話をたくさん聞いてくれます。聞けば自分のこともたくさん話してくれます。でも、言葉の端々でお兄さんは少し影を見せます。
 私とお兄さんは年で言うと八歳の差がありました。お兄さんは自分をもう三十路のおじさんだよ、と言って聞きません。私の後輩が「女は二十四からだ」と言うように、私は「男は三十からだ」と思っています。なので、まだお兄さんでしょと反論して、お兄さんを困らせます。
 お兄さんは良識ある人なので、八歳の差、八歳も差がある私を恋愛対象にはしてくれていないのかもしれません。後輩止まりなのかもしれません。お兄さんが「おじさんに付き合わせちゃ可哀想」などと気を遣っているのなら、それは大層な誤解であり、大変迷惑な気遣いです。
 楽しい嬉しいをそんなに顔に出しておきながら、一歩を踏み出さないなんて。あなたがこっちに来てくれないなら、仕事の邪魔をもっとして、私がずいっと近付いてみましょうか。
 面白い話をしながら時々、あなたと一緒にいるのが嬉しいのと、さりげなく零し続けています。出会ってから仲良くなるまではあっという間だったし、多分、お互い気が合う相手だというのは気付いているのだと思います。でも、欲しい関係にはなかなかならなくて。歯痒い思いをしています。

 今日は戯れにでも「大好き」と言ってみようか。そんなことを迷いながらまたあなたの職場にお邪魔して、あなたの顔を見たら迷っていた内容なんかどっかいってしまって。ほらまた、他愛のない話しかしていない。
 あなたが言わないでいるかもしれない言葉は、多分私が言えずにいる言葉と良く似ているんでしょう。

−終−

2012.10.6


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